第六回 「〈開発〉という体験 スマトラの村の歴史から」 [研究項目]1、インドネシア 2、社会史 3、開発 4、地域研究 |
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1960年代からつい最近まで、東南アジアにとって開発はホットなトピックだった。開発の讃美者は、開発なくして人間らしい最低限の生活の保障もなければ、政治の安定や民主化もないと主張する。他方、批判者は、開発体制の強権的体質や、開発主義のもたらす物質主義、環境破壊の問題を指摘する。いずれにしても、1997年のアジア金融危機を契機として、開発のあり方が、あらためて再検討を迫られているのは確かだ。再検討がどのような方向に進もうとも、「第三世界」の他の地域におけるとおなじように、開発は今後ともに、東南アジアにとって重要な政治的アジェンダであらざるをえない。わたしは開発を専門として研究しているわけではない。人類学、歴史学、社会心理学のインターフェイスを学問的関心のよりどころとしながら、近年はインドネシアの一村落で、フィールドワークに基づき、この100年ほどの社会史を書くための作業を続けている。開発研究が専門ではないといっても、32年間におよぶスハルト体制下の開発政策によってインドネシア社会が大きく変貌した以上、一般的な村落研究といえども、なんらかの形で開発のことを考えないわけにはいかない。
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