6.〈クーポン時代〉のヒーローたち
従来の村の政治は、伝統に基づいて特定家系から選ばれた長老数人の合議制によって営まれていた。1910年代以降、これに変化が起こる。長老のうち、オランダに信頼された特定個人が一人で力を振るうようになったのである。さらに、それまで極端な貧富の差がなかった村人のあいだに、シンガポールからの奢侈品の持ち運び販売の商いや、中国人ボスの差配のもと、村でのゴム買い付けで財をなす者がでてきた。なかには、メッカ巡礼に出かけた者もいる。新しい時代が生みだしたこれらヒーローたちは、トタン、板材、セメントを使って建てられた家に住み、家具としてベッド、応接セット、洋ダンス、鉄製金庫、柱時計などを用いていた。当時の三種の神器はなにかといえば、ミシン、自転車、蓄音機である。1930年代に対岸をとおるバス・ルートが開通すると、近隣の西スマトラ州に物見遊山に出かけることが、経済的に余裕のある村人のあいだで流行となった。
オランダ時代の村一番の金持ちの家にみる応接セット。
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