11.消費される開発
開発を政権基盤に据えたスハルト体制では、プンバングナン〈開発〉がしきりと口にされた。五カ年開発計画、開発内閣はその顕著な例である。どのように成果があがろうとも、30年も同じことを唱えていれば、開発はスローガンとしても実態としても、金属疲労を起こし、中から腐っていかざるをえない。経常化された開発予算と開発プロジェクトは、担当者にとっては毎年予算を消化するルーティンな仕事となり、権益をもつ者にとっては、途中でつまみ食いをする対象へと転化する。指導する者も、指導される者も、もはや「公のために」といった高邁な理想を指導者に重ね合わせて考えることはない。〈指導者〉プミンピンという言葉さえ、スハルト体制下では廃れてしまった。かわりによく耳にするのは、大統領、大臣、州知事、県知事、郡長、村長といった職階名であり、許認可権ないし権益配分の階梯である。開発プロジェクトはといえば、五年ごとの総選挙のタイミングに合わせ、与党組織ゴルカルが選挙で勝利するため、村レベルにまで配分される消費財となった。毎年の村落開発援助資金のため、勤労奉仕を動員することは難しく、いまやプロジェクト遂行のため、村長は村人に労賃を払うことまでしている。
選挙対策のためなのだろう、1980年代半ばにつくられた村の灌漑用水路。稲作よりは、村人の水浴の役に立っていそうである。
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