3.好きやねん
人生において心に残る出会いがそうであるように、わたしとコトダラムとの出会いも偶然の賜である。調査村を決めようと思っていたとき、知り合いの地方大学の学長さんに自分の出身村を紹介された。1984年11月のことだった。研究者といえども、切れば血の出る生身の人間である。フィールドワークで泣きもすれば笑いもする。好き嫌いもある。コトダラム村の人々とは、最初からなにか波長があった。泊めてもらったティノばあさんは忘れられぬ人となった。好きなのである。「好きやねん」が研究のあり方にどのような影響を与えているのか、これはいずれ自分なりに考えてみたい。とにかく、そう決心をしたわけではなかったが、途中数年の空白をのぞいて、毎年コトダラムでなにがしかの時間を過ごす結果となった。最初の出会いから数えて今年で15年目。村では年寄りと雑談をし、聞き取りを中心に村の歴史の再構築を試みている。村で会った最年長者は1890年代末の生まれである。
パシールからコトダラムへと向かうため、くりぬき船に乗って川を渡る。
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