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1. アジアのなかの東南アジア -多様な側面-
東南アジアという地域を実際に歩き、目でみた人はこの聴衆のなかにも多くあると思う。東南アジアは、インドと中国に挟まれた地域で、その全面積は、ほぼインドや中国に匹敵する。この地域に含まれるのは、国名でいえば、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム等のいわゆる大陸部の国々、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、フィリピン等の島嶼部の国々である。これらの国のいずれかを訪ねたことのある人は、東南アジアに足を踏み入れたということになる。それで、東南アジアの雰囲気が掴めるかというと、ある意味ではイエス、厳密な意味ではもちろんノーである。東南アジアは、それほど多様なのである。
多様な側面について述べるならば、もっとも目につきやすいのが宗教である。タイやミャンマーの上座仏教、マレーシアやインドネシアのイスラム、フィリピンのカトリックなど、寺院、モスク、教会の分布などから容易に判別がつく。宗教が日常生活のリズムを作り、生活の規範を与えている。同様に目から入るという点で、多様な言語や文字がある。そうしたなかで、東南アジアの宗教も文字も、多くがインド、中国、中東、ヨーロッパなどから持ち込まれたものであり、東南アジアそのものには、オリジナルがない、さらには文明がないという指摘がされたりする。ずっと以前のことだが、私のフィリピンの友人は自分たちが、カトリックや西欧がもたらしたものを排除して、フィリピン固有のものを求めようとすると、石器時代の生活ということになってしまうと語ったことがある。

西カリマンタン州とカプアス川。
1992年にこの川を上流までたどった。
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Contents
1、アジアの中の東南アジア
多様な側面
異質の要素
2、類似のなかの異質
2-1、都市の構造
多民族的構造
2-2、移動性
出稼ぎ
焼畑
3、小人口世界
4、東南アジア型社会
農民と移動
異質への親和性
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