Contents
なにが問題なのか
1、なぜ行き詰まったのか−政治制度
2、なぜ行き詰まったのか−政権の運営
3、なぜ行き詰まったのか−政治的妥協と非常事態宣言の問題
4、新政権は安定するのか
5、なぜ政治社会秩序は不安定なのか
6、なぜ家族主義システムは崩壊したのか
7、インドネシアの危機をどう考えるか
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7.インドネシアの危機をどう考えるか
インドネシアでは、一九九八年五月のスハルト体制崩壊以来これまで、国民の信託を受けた本格政権の下での政治的安定の達成が危機の克服の鍵と見なされてきた。自由で公正な選挙によって議員が選ばれる。これを主体に国権の最高機関、国民協議会が召集される。大統領が選出され、国民の信託を得た本格的政権が成立する。政府が抜本的改革を実施する。それをきっかけに経済が成長の軌道に戻る。こうして一九九七年の危機以来の<経済危機→社会危機→政治危機→経済危機のさらなる深刻化>という悪循環に代わって<政権の安定→改革の実施→経済危機の克服→社会危機の克服→政治のさらなる安定>という好循環がはじまる。これが期待されたシナリオだった。
インドネシアの情勢はこうしたシナリオの通りには進まなかった。これがあれほどにも大きな期待を担って成立したアブドゥルラフマン・ワヒッド大統領に対する幻滅をもたらし、またメガワティ大統領待望論の根拠ともなっている。 しかし、現大統領の下においても、メガワティ大統領の下においても、インドネシアの政治が近い将来、安定するとは考えられない。政権は安定するかもしれない。しかし、資源再配分メカニズムが崩壊しているなかでインドネシアの大きな政治社会秩序、法秩序の安定が回復するはずがないからである。
こうしてみれば、大統領に人を得れば、それをきっかけに危機の克服に進むことができる、そういう前提で構想されたインドネシア危機克服のシナリオ、<政治の安定→改革の実施→経済危機の克服→社会危機の克服→政治のさらなる安定>がどれほど非現実的なものか、明らかだろう。インドネシアの政治はこれからも不安定なままにとどまる。いま必要とされているのは、これを前提とした現実的な危機克服のシナリオ、資源再配分メカニズムの再建を促すようなシナリオである。
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