Contents
1.アイデンティティ
2.自己所有
3.違和感からの出発
4.おわりに
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2.自己所有
アイデンティティは、「同一性」と訳されることからもわかるように、何らかの存在がそれ自身であるを意味する。しかし、ここでのべるアイデンティティは金のような何からの物質がそれ自身であることを意味するのではなく、人間、それも自己の問題と深くかかわっている。このことはアイデンティティという言葉がつかわれる文脈からおおよそ察しがつく。
こうしたアイデンティティの成立根拠は「西欧近代の哲学史においては、たいていの場合、わたしの意識が時間の経過のなかで、過ぎ去った不在の自分自身の意識を『もち』つづけるという、そういう自己所有のうちにもとめられてきた」[鷲田
1995:125-126]。
ここでいう自己所有(self-ownership)とは自己が身体とその諸能力をふくむ自己を所有物として支配することを意味する。この自己所有に自律した主体が成立する契機をもとめるジョン・ロックをはじめとするイギリスの近代思想家たちの考え、つまり、マクファーソンのいう所有的個人主義(possesive
individualism)は近代世界のなりたちに根源的な影響をおよぼしてきた。
マクファーソンは所有的個人主義をつぎのように定義している。「個人は自己の身体と諸能力の所有者であるゆえに自由……[であり]、人間の本質は他人の意志への依存からの自由であって、自由は所有の関数である。社会は、諸個人の諸能力の、および彼らがそれらを使用して獲得したものの所有主として、相互に関係させられた自由平等な諸個人のあつまりとなる」[マクファーソン1980:13、Macpherson
1962:3]。
ここでいう交換とは商品交換のそれであり、それが近代世界システムを支える重要な礎石のひとつであることはいうまでもない。
2)インドネシアの首都ジャカルタの高層ビル群
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