アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第39回 「メルマガ写真館」

おかあさんのごはん」...濱谷真理子(東南アジア地域研究専攻)

 

はじめての土地にいっても、たいていなんでも好き嫌いなく食べられるわたしですが、ネパールでこれだけは無理、とおもってしまった食べものがあります。それは、「ディロ」です。ディロは、穀類の粉を固い粥状に調理した料理で、蕎麦の粉でつくった日本の蕎麦がきのようなものや、トウモロコシの粉を煮込んだものなどがあります。わたしを苦しめたのは、トウモロコシのディロで、べっちゃりとした手触りや、独特の味のなさ、そしてタルカリ(おかず)やアチャール(漬物)の量に比べて多すぎるディロをのどに流し込まなければならないことでした。

 

当時、わたしはカトマンズ郊外の村落で、人びとから「マータージー」や「アマ」と呼ばれる(日本語では母を意味する言葉です)女性修行者のもとでお世話になっていました。「娘」として扱われたわたしは、彼女にごはんを食べさせてもらっていましたが、日本とは異なる食生活や言葉の不自由さに加え、「外食はするな」「肉を食べるな」などあれこれ指示や説教をされる生活にストレスがたまり、消化不良に陥ってしまいました。せっかく作ってもらったごはんを前に食欲も出ず、特にディロのような苦手なものを出されたときには、うまく言葉にして伝えられないもどかしさをこらえながら、無理やりお腹に詰め込んだものです。

 

現在、カトマンズのような都市部では、昔と違ってディロを日常的に食べることはあまりなく、お客さんに出すのは珍しいそうです。家庭のディロを食べられる機会に恵まれたわたしは、むしろ幸運だったといえるのかも??

 

アジア・アフリカ地域研究マガジン第74号(2009年8月配信)