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2000年度目次(東南アジア地域研究専攻)

  第二十一回 「開発現象と地域研究」
 
 

Contents

1.村の「伝統」としての開発

2.開発現象の複雑さ

3.地域研究としての開発現象研究

4.人、言葉、モノのネットワークとは
  どのようなものの見方か

5.開発現象―人、言葉、モノからなる
  ネットワーク

  

1.村の「伝統」としての開発

 今から20数年前に、スリランカの大学に留学した。現地の大学院で学びながら、多数民族のシンハラ社会の人類学的な調査をしようと考えたからである。そして、紆余曲折しながらも、ようやく調査を開始するため調査村をさがしはじめた。

 当時、まだ多くの人類学徒は、「本物」の「文化」や「社会」というものに強い執着をもっていた。その例にもれず、私も大規模開発が行われている地域を避け、電気もなく、トラクターも使われていない、森に囲まれた「伝統農村」(プラーナ・ガマ)をさがしてまわった。モーターバイクにムシロと全島の地形図をもって4ヶ月間、村を訪ね歩いた。しかし、それでわかったことは、どれだけ町から離れようとも、野生の象が出没しようとも、どの村にも高収量品種の稲と化学肥料が使われ、車用バッテリーをつかったテレビを村人たちは見ているという点であった。
 今思うと、赤面ものである。開発は、植民統治時代から始まり、独立を経てさまざまに行われ、村の一つの伝統のようになっていたのである。それは、村における家族、親族、宗教と同じように、一つの制度であり、象徴体系であり、日常的な行いであった。

 結局、大規模開発地域外の古くからある村と、その近くにある大規模開発地域の入植村を調査したのであるが、それ以来、開発という一見分かりやすそうで、しかしその広がりがよく見えない現象が気がかりとなってきた。開発とはいったいどのような現象か。それはどのように捉えることができるのか。

写真1 スリランカ・マータラ近郊の家内工業訓練所。

東南アジア地域研究専攻
連環地域論講座

足立 明
E-mal:adachi@asafas.kyoto-u.ac.jp