プログラムの概要
1.本事業の目的と必要性
文理融合型地域研究は、地域の上部構造から下部構造までを、人文科学、社会科学、自然科学の協働によって幅広く観察し、理解しようとするものです。その基礎にあるのは、フィールドで用いられている言語であり、言語の着実な理解に基づいてはじめて、当該フィールドの文化の全体像に迫ることが可能となります。
本事業は、地域研究に必要な現地語の習得を通してこの全体像に迫ることを第一の目的とします。同時に、世界でも類を見ない文理融合型地域研究の成果を国際的に発信する力の強化を第二の目的とします。
従来の大学院における語学教育の多くは、「現地に行けばしゃべれる」という場当たり的な語学論に基づく語学習得法と、現地でのフィールドワークに必ずしも役に立たない教室語学のいずれかであったといっても過言ではないでしょう。本事業の必要性は、この状況を打破し、地域研究に真に役立つ語学教育を提供することにあります。本事業では、若手研究者各々の研究分野に最もふさわしい現地研究機関に派遣し、そこで専門性の高い語学トレーニングを受けさせます。アジア・アフリカの言語は何千にも及びますが、日本で講座の開かれている言語はほんの一握りであり、その多くはフィールドに行かなければ習得できません。
2.academic languageとvernacular languageの双方を視野に入れたプログラム
地域研究においては、政治・経済、歴史や神学のような文字文化に基礎を置く側面から、民衆信仰や生態・農業のような文字文化と直接的な関係を持たない側面までに広がる場の全体を理解する必要があります。前者のような側面は、言語的にはacademic language(広い範囲で共通語として通用する学術語)が担い手となり、その研究も主として文献を中心に行われます。これに対して後者の側面は、儀礼やモノを通してあらわになるもので、その際にはvernacular language(現地の地方言語)が用いられます。これは文字をもたないことが多く、フィールドワークを通して語りが収集されることによって研究が行われます。モノそのものを通した研究も、その土地の言葉で何と呼んでいるかが研究の基礎となることに違いはありません。
本事業では、このacademic language、vernacular languageの双方を視野に入れています。この両者は、知識人の書き言葉と民衆の話し言葉と言い換えることもでき、地域文化の上流から下流までの全体を理解するためには、いずれも劣らず重要です。このいずれにも対応しうる語学教育を、本事業では現地語教育と呼んでいます。
3.インプット・レベルからアウトプット・レベルまでをカバーする教育体制
研究は、フィールドワークからであれ、文献からであれ、情報をインプットすることから始まります。本事業では、とくに博士前期課程相当の最も若い研究者の情報インプットに最大の便宜を図るべく、地域研究現地語習得のためのフィールド派遣を柱の一つに据えます。分野によっては、まず理念を集中的に学習した後に始めてフィールドに行く場合もあるので、その場合は博士後期課程の学生もこのインプット・レベルの教育支援の対象となります。
他方、博士後期課程・ポスドクから助教レベルになると、情報インプット能力はすでに相当程度開発されているとはいえ、国際社会への発信が行えるアウトプット能力を強化する必要があります。本事業では、英語のみならず、フランス語およびアラビア語を、アウトプット・レベルの対象とします。西アフリカ研究や旧仏領インドシナ研究などの場合は、英語よりもむしろフランス語がアウトプット言語として重要です。また、イスラーム世界全体の学術共通語であるアラビア語は、国際会議の公用語としても重要性を増しつつあります。大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に2007年度より附置されたイスラーム地域研究センターと連携して、アラビア語教育の国際発信力強化につとめます。
また、研究科に「臨地語学演習I」「臨地語学演習II」という講義を新設し、本事業に基づき研修を行った学生に対し、単位を付与しています。
4.本事業の独創性・特色
本事業計画の独創性・特色は、現地においてトレーニングを行うことと、国際発信のための言語として英語のみならず、フランス語・アラビア語をも重視することの2点にあります。