第220回 「メルマガ写真館」
第220回 「メルマガ写真館」
「ダンボールと結束バンドとバナナ」
北嶋 泰周(グローバル地域研究専攻)
私が調査するネパールの首都カトマンズの中心に位置する旧市街地アサンには、自転車で果物を売る露天商がいます。彼らの多くはインド・ビハール州からやってきた人たちで、複雑な小路を練り歩きながら毎日60~70kgの果物を叩き売ります。しかし、2022年からカトマンズ市当局の取り締まりが厳格化され、自転車ごと押収されるようになってから、自転車を使わなくなる露天商も増えてきました。
その一人であるナナク(30代男性)は、アサンで10年以上もバナナを売っており、無愛想なインド系果物商人が多いなか、数少ない社交的な人物でもあります。そのためか、仲の良い露天商には「おやつ」と称して勝手にバナナをむしり取られることがあります。かくいう私もその一人です。
2023年1月中旬、イチゴを売る私の隣にダンボールを持ったナナクがやってきました。彼が結束バントを外すのに苦戦していたので、私はハサミを貸そうとしましたが、彼はそれを断りました。彼はダンボールを開き、結束バンドをもう一度丁寧に付け直し、その上に商品のバナナを置き、私にこのように語りました。
「こうやって箱の角とバンドを使ってバナナを置くんだ。遠くにいる人にバナナが見えるようにするんだよ。お前もイチゴを上に積んでいくだろ?」 彼はダンボールを裏返して台にすると、市警察の摘発から逃げ遅れてしまうと言います。これはナナクが編み出した、摘発を逃れながら上手に商売を続ける知恵であり、そのためには結束バンドが必要不可欠でした。
私がネパールを訪れるたびに、彼らは私に新しい商売の知恵をお披露目してくれます。ネパール渡航が直前に迫るなか、次に彼らが私にどのような驚嘆を与えてくれるのか、非常に楽しみです。
写真
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