第204回 「メルマガ写真館」
第204回 「メルマガ写真館」
「野生の木の実とその利用」
石崎楓(東南アジア地域研究専攻)
ナッツはお好きですか?現代日本の食生活では、アメリカで栽培されたカシグルミやアーモンド、インドや東南アジアで栽培されたカシューナッツなどが消費されています。しかし各地では、日本原産の木の実の利用もまた引き継がれています。今回ご紹介する、カヤの実の利用もそのひとつです。カヤ(Torreya nucifera)は、雌雄異株の常緑高木で本州の宮城以南から四国、九州(屋久島まで)分布する日本固有種です。食用の油にしたり、ナッツとして利用するために、古くから庄屋や問屋の屋敷地やお寺の境内に植えられてきました。
9月のお彼岸のころ、ナリドシであれば実がどんどん落ちてきます。そのままでは渋くて食べられないのであく抜きが必要です。私の調査地のひとつである三重県いなべ市では、寒の時期に作るカキモチの「具」としての利用が一般的です。しかし、中には、あく抜きをしなくてもおいしく食べられるカヤの木があります。それは地元で「シブナシガヤ」と呼ばれ、桑名藩の支配下にあった江戸時代、山村の年貢の足しにするために松平定綱公が植えたとされます。。
一般に、屋敷地の有用植物は、生活スタイルの変容によって伐採される傾向にあります。しかし、加工・調理方法・食文化も含めたそれらの植物資源は、地域文化を反映した有望な地域資源としても注目されています。実際に、各地でカヤの実の商品化も進んでいます。長い歴史のあるカヤと日本人の関係性の今後の展開が楽しみです。
(上記メルマガ写真館に関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid0QzGt6hXMPKk5QuvtLiuGc9pm6EF456v7CerDW6F7rcG8iUMd3FsLSbkee7nBeaZ8l
写真1:天日に干された状態の「シブナシガヤ」の実
写真2:カキモチの具となればカヤの実のほろ苦さも美味しく味わえる
写真3:集落の中心部に受け継がれる雌雄の「シブナシガヤ」