第199回 「メルマガ写真館」
第199回「メルマガ写真館」
「もうひとりの弟に祈りを捧げて」
川口千尋(グローバル地域研究専攻)
私には弟が 2 人います。1 人は 19 年前に生まれた日本の弟で、もう 1 人は 10 月末に行われた「ティハール」というお祭りで姉弟の契りを結んだネパールの弟です。
ティハールは富と豊穣の神ラクシュミーを家に招くお祭りとして知られていますが、その起源には死を司る神ヤマの伝説が関係しています。期間中、人々はカラスや犬、雄牛に祈りを捧げます。これらは全て、ヤマに会うことを切望した妹のヤムナを支えた動物たちであるといわれています。
ティハールの最終日には、兄ヤマに会って祈りを捧げることができた妹ヤムナに倣って、女性たちが兄弟の無病息災を祈る「バイ・ティカ」という儀式を行います。私は 3 年前に出会ったシングルマザーの息子にバイ・ティカを施しました。
ネパールにおいて、シングルマザーは家族の名誉(ijjat)を傷つける存在として扱われることも多く、子を連れて村に帰ることができない例も少なくありません。また、父親が分からないシングルマザーの子が、母親の姓でパスポートや選挙への投票権を得ることができないという状況も続いています。私がこれから行う研究が、ネパールの弟やシングルマザーたちの置かれた状況を社会に伝える一助となることを願いながら、ティハールの儀式を終えました。
(上記メルマガ写真館に関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/pfbid032SBGHYURKhZiXk2199GN5FLjThpGsX4KQzEurvq9rbFADU7CnPrPkMx5nLFN6U1Xl
写真1:バイ・ティカを行う筆者
写真2:ラクシュミーを迎えるための装飾
写真3:儀式を終え、ティカ(額の赤い印)とマラ(首飾り)をまとった犬