第193回 「メルマガ写真館」
第193回「メルマガ写真館」
「神を神たらしめる日 —岩手県南部、遠野盆地より」
森内こゆき(グローバル地域研究専攻)
12月12日は、山の神の日です。遠野では、この日は山神が山の木を数えて回っているので、人間は木を伐採してはいけないとされています。普段は森林調査や間伐を生業とされている現地の方が、今日は山仕事に代えて、長年手付かずだった山に鳥居を建てると教えてくださったので、同行させていただきました。
新しく建てる鳥居は、あらかじめ間伐材を用いて造られたもの。間伐によって日光を入れることで、森林が本来もつ水源涵養力や生物多様性を養うことができるといいます。間伐材は、薪や炭などの生活財としても利用します。この手付かずの山でも翌春から間伐を進めていくそうで、山仕事に先んじてこの山の神の日に、山中の小さな祠の下に鳥居を設えるということでした。鳥居と祠には〆縄をかざり、米と塩をまいて山神を祀りました。山主によれば、近年はこの山を整備してきた集落の方々が順々に亡くなり、高齢の女性ひとりがなんとか参詣だけを毎年欠かさず継続してくれていたのだそうです。
人間に祀られなくなった神が落ちぶれて妖怪になるのだと、『遠野物語』を著した柳田國男は考えました。神に献げる鳥居や石塔が山の麓に立ち並ぶ遠野でも、人口減少や高齢化を経て、祀られなくなった神々は多くいるようです。この日は、久しぶりに多くの人の手で山神を祀る懐かしい時間を、地域の方々と共にすることができました。(2021.12.12)
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