アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館
第97回 「メルマガ写真館」
「牧夫の夏」
...伊村優里(グローバル地域研究専攻)
村から馬に乗って20分ほど、放牧中のヒツジの群れが見えてきました。
山と言っても木は一本もなく、どこまでも続く起伏のある草原は、なんとも不思議な光景です。
中央アジアの小さな国、クルグズスタンは、氷河から流れ出る水と豊かな草原を活かして、現在でも牧畜が広く行われています。
「夏には山を越えて、ジャイロへ行く。」
口数の少ない牧夫は、馬上からそう教えてくれました。
ジャイロとは、夏の間の遠方の放牧地のことで、村から何百キロも離れたところにあります。牧夫は家に家族を残し、家畜とともに野外で寝泊まりしながら、短い夏を過ごします。
ジャイロは天国のようなところだと、彼は言っていました。
私はヒツジの群れの向こう、黒くかすむ険しい山に視線を移し、そこにあるはずの美しい緑の草原と、独り家畜を追う牧夫の姿を想像しました。