アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館

第77回 「メルマガ写真館」

「沈黙の保ちかた」
...近藤有希子(アフリカ地域研究専攻)

 

写真に写っているのは、ルワンダ共和国南部州にあるカトリック教会のひとつです。1934年、ベルギー人によって建てられました。この大きくて立派な教会は紛争後に建て直されたものですが、その右手には、それ以前に使われていた小さな教会が、いまもひっそりと佇んでいます。

 

1994年にルワンダでジェノサイドが起こった翌年、国際NGOの職員がこの教会を訪れると、3つの墓穴から何百もの死体が掘り起こされているところだったといいます。地面まで洗い流されるほどの雨が降った後でした。

 

それから17年。その小さな旧い教会には、亡くなった人たちの骨が陳列され、ここもまた、ルワンダ各地に存在するメモリアルのひとつとなっています。

一方の大きくて新しい教会は、ゆたかな太陽の光を受けながら、直線的な構造と鮮やかな色彩を強調しています。

 

紛争後に順調な経済成長を続けるルワンダは、「悲劇の国の奇跡的な復興」と輝かしく形容されることもあります。しかし、小さな教会の存在を追いやろうとするかのような大きな教会の壮観さは、紛争後もむしろ加速度的に形成される社会の格差や分断を、そして場所を移して繰り返される剝き出しの暴力を、背後に隠し、排除しようとする所作をも想起させるのでした。

 

その矛盾が染み入るかのように、今日もまた午後になると降りだす雨が、からだの芯まで貫く寒さをもたらし、一帯を包んでいた色彩や声を奪ってゆきます。日々繰り返されるこの雨こそ、人びとの目を虚ろにして、口をふさがせている正体なのかもしれません。