アジア・アフリカ地域研究情報マガジン:メルマガ写真館
第66回 「メルマガ写真館」
「葬儀でのかけひき」
...紺屋あかり(東南アジア地域研究専攻)
人口およそ1万7千人のパラオで葬儀となれば、パラオ全土のみならず、移住先のハワイやグアムなどからも人々が参集し、少なくとも200名ほどが参列するほどの大規模な儀礼となります。地縁・血縁者や友人などが集い、故人やその親族との関係に沿った贈与(米ドルや、パラウアンマネーと呼ばれる石のお金と鼈甲の皿)を行います。そうして集められた贈与額の総額は多い場合でおよそ600万円になります。葬儀には多くの人が参集するため政治家が選挙活動に訪れスピーチすることもしばしば。パラオの葬儀は伝統的儀礼としてだけでなく、重要な社会・経済活動の場としての側面を併せ持つのです。
多くの事柄が一日中ひっきりなしに起こる葬儀では、さまざまな音が聞かれます。賛美歌、ギター、政治家のスピーチ、伝統的葬式歌、儀礼的語り、家族の泣き声、そして最も大音量でひっきりなしに耳に入ってくるのが、マイクを通した贈与額アナウンスの声です。「○○さん、300ドル」、「○○家、1000ドル」と、一日かけてすべての人の贈与額がアナウンスされます。写真は、父方親族の贈与額アナウンスを聞きながら自分たち(母方)の贈与額の相談をしている場面です。葬儀参列者は皆、聞いていないようでいて実はしっかりと耳を澄ましながら、かけひきを行っています。目には見えないやりとりが、この実にシュールなアナウンスを通じて行われているのです。