第57号(2008年3月配信)「メルマガ写真館」
「ガラブ・セレール Garabu Serer」...太田雅子(アフリカ地域研究専攻)
私はセネガル首都、ダカールで調査をしています。あるとき私は体調をくずし食欲をなくしてしまいました。心配したセレール人の友人は「ガラブ・セレールを買ってくる」と言ってセレール人の治療師が住んでいるダカール郊外の村まで行ってくれました。ガラブとは、ウォロフ語でクスリのことを指します。彼が買ってきてくれたのは、ウォロフ語で‹mbeurbeuf›(学名 Momordica charantia[Cucurbitacae])と呼ばれている苦瓜で、棘のある橙色の花がついています。乾草薬草を茹で、その湯汁で沐浴します。滑りがあり、少々苦い匂いがしますが、体の緊張がほぐれて爽やかな気分になります。
薬代は多くの人にとって頭を抱える問題です。ガラブ・セレールのような薬草は値段が手ごろなので、近代医療にアクセスする金銭的な余裕がない場合に頻繁に利用されています。しかし、子供の頃からダカールという大都会で育った彼は、近くの薬局を利用することもしばしばあり、生活に困っているわけではありません。それでもわざわざ1時間近くかけてセレール人の治療師を訪ねたのは、彼が自らのコミュニティーの中で培ってきた「ガラブ・セレール」に対する知識と信頼があったからこそでしょう。セネガルには小さな伝統薬局だけではなく、大規模な伝統医療機関(l’Hôpital de Medicine Traditionnelle de Keur-Massarなど)があり、「ガラブ・セレール」のような伝統薬はセネガル人一般に普及しています。