臨地教育研究による実践的地域研究者の養成

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

第50号(2007年8月配信)「メルマガ写真館」

「砂に埋もれた歴史のかけら」..........首藤英児(東南アジア地域研究専攻)

深閑とした美しい砂浜。数日ぶりに霧が晴れたこの日、夜には月が輝きました。

ここは「地の果て=Land’s End」と呼ばれるイギリス最西端の岬の近く、ポースカーノという寒村の浜辺です。訪れたのは10月の終わり。「短い夏の間だけは海水浴客でにぎわうがね、この時期は毎日深い霧で、だれも来やしないよ。ひっそりとしたもんだ」。ペンザンス駅から村まで運んでくれたタクシードライバーのトニーによれば、そんな場所です。

しかし、にわかには信じがたいことですが、この地はほんの数十年前まで《世界最大の情報通信センター》でした。

19世紀の後半から、イギリス帝国は世界の海に通信用の「海底電信ケーブル」を敷設しました。その大半はポースカーノ村を始点とし、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、インドから中国・日本に至るまで、世界中の情報がこの村の電信基地に集められ、ここから首都ロンドンへと伝えられていたのです。もちろんその逆も。

約100年の繁栄を謳歌し、1970年に役目を終えたこの村には、小さな電信博物館が作られました。世界各地とつながっていた海底ケーブルもすべて撤去されました。しかし、何もなくなったように見えるこの浜辺にも、残された資料を片手に想像力をほんの少し働かせれば、「歴史のかけら」がいくつも転がっています。

作成日: 2007年8月24日 | 作成者: 事務局