「インドの政治システム:比較史的考察」
木村雅昭(京都大学法学部教授)

1999年4月23日
京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・連環地域論講座・講義室



 木村氏は、世界各国の政治システムは村落共同体のあり方に基本的に規定されるとし、この視点からインドの政治システムを位置付けようと試みる。
 その際に、まず比較の対象として、木村氏は日本を取り上げた。日本では、丸山真男が「超国家主義の論理と心理」において指摘したように、戦前には村落共同体の自己拡大過程の結果として家族国家が成立していた。その構造は現代日本社会においても、業界を構成する会社組織に受け継がれていると木村氏は指摘する。  このような構造は、インドにおいても顕著に見られる。インドの村落共同体にみられたジャジマーニー・システムにおいては、人的従属関係を伴わないパトロン−クライアント関係が存在した。そのような関係は、国家のレベルでも見出せる。王と臣下の関係においては、取り分社会の原理が作動しており、臣下は自分の土地を自分の取り分と意識することによって、上からのコントロールを脱していく構造がある。そのためにインドにおける国家は様々な権益が重層的に折り重なった構造を持つのである。こうした状況の結果、インドの統治権力は不安定となる。
 しかし、インド社会が無秩序であるというわけではない。たしかに、分割相続による土地の細分化がおこり、さまざまなカースト集団の存在とその相互間の対立がみられるものの、インド社会にはジャジマーニ−・システムにより独特の秩序が形成されている。

 報告に続く討論では、このような木村氏の指摘に対し、参加者から、「ジャジマーニー・システムをインド社会の時間的・空間的に固定化されたシステムと捉えるべきか」などの様々な意見が出され、活発な議論が戦わされた。 (報告:中島岳志)


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