第2回例会 1998年7月7日(火)
南アジア地域研究懇話会第2回例会は「ヒンドゥーとはなにか」というテーマで、田辺明生氏と藤井正人氏が、それぞれの調査地・専門分野に基づいて話題を提供してくださった。
田辺氏は「『ヒンドゥー』的地域共同体と『ヒンドゥー共同体』」というタイトルで、中世オリッサの例をあげながら「ヒンドゥー化」とは何か、「ヒンドゥー」的地域共同体とはいかなる原理のもとに形成されていたのかを検討した。そして、その結果を現代インドにおいて観察される「ヒンドゥー共同体」の主張内容と比較考察することで、現代インドが抱える宗教問題の分析を行った。
藤井氏は「ブラーマンとヴェーダ伝承:ケーララ・ナンブーディリの場合」というタイトルで、まず最初にブラーフマナ(バラモン/ブラーマン)とヴェーダについて概説を行い、ヴェーダ文献と学派についてブラーマンの移動とヴェーダの伝播の関係に留意しながら論じた。そして、ケーララ・ナンブーディリにおけるヴェーダ伝承が今日直面している極めて困難な状況について報告された。
「ヒンドゥー」なるものとはいったい何か・・・。今回の例会では、こうした大きなテーマに人類学者とヴェーダ学者が取り組み、それぞれが異なる視角から「ヒンドゥー」なるものの幾つかの側面に光を当ててみせた。両氏の報告のあとでは非常に活発な議論が繰り広げられたが、地域性や時代性に限定されるものとしてのヒンドゥー像が求められているのか、あるいは超時空的なヒンドゥー像が想定されているのかについての議論が予めなされなかったため、焦点の絞りきれない面も若干見られた。しかしながら、これまで自明のこととされてきた感のある「ヒンドゥー」や「ヒンドゥイズム」を今一度考え直す絶好の機会となった。
(小牧幸代 京都大学人文科学研究所)