■■■ July 2024 第253号 ■■■■■■■■■■■■
アジア・アフリカ地域研究情報マガジン
ASAFAS INFOrmation Magazine
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/
■■■■■■■■■■■■【発行部数 1,073】■■■■■■■■■
___________今月号の目次 Contents__________
□ フィールド便り.................. 「銅の街、黄金時代のあと」
□ メルマガ写真館..................「マンゴーの木かげの手仕事」
□ お知らせ.......................研究会・展示告知など
□ 最近の出来事...................Facebook・X(旧Twitter)情報
□ 編集子より
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■ フィールド便り Letter from the Field
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「銅の街、黄金時代のあと」
西村航成(アフリカ地域研究専攻)
大型トレーラーの車列が、赤土の未舗装路の上をひっきりなしに行き交っている。私たちを乗せたタクシーはその車列の間を縫って走り、鉱山会社の通用門に行き当たって停車した。ここから先に私たちは立ち入れない。さっき抜き去ったトレーラーたちが門をくぐっていく。ここで製錬された銅を積み出すのだ。車を降りると排ガス混じりの熱風が吹き付けた。乾季の日差し。赤い砂埃。思わず目が眩む。鉱業の他に見るべきもののない殺風景な街路だ。しかし、私を連れてきたN夫妻は、この通りで暮らした時期がもっとも豊かだったという。夫妻は私にかつての街の繁栄ぶりをまざまざと語った。
ザンビア共和国コッパーベルト州キトウェ市は、州名が示す通り銅の一大産地だ。私が寄宿するN家の老主人は鉱山会社を10年前に退職した。彼とその妻はザンビアの銅産業の栄光と凋落を身をもって知っている。今はなき巨大国営企業ZCCM(ザンビア合同銅鉱山会社)に勤めた時代についてN氏が語る。「昔の暮らしは素晴らしかった───従業員のためのボーリング場も、プールも、映画館もあったんだ」彼の妻が続けて言う。「家も食事も病院も、全て無料で会社が提供してくれた、自炊をする必要もなかった」労働貴族と称された鉱山労働者の厚遇ぶりを窺い知った。
ザンビア経済の浮沈はひとえに銅の市況にかかっている。1964年の独立からしばらくは好況が続き、鉱業が国家主導の近代部門開発を牽引した。外貨のほとんどを稼ぎ出す鉱業部門は極めて影響力のある労働組合を有し、組合員たる鉱山労働者の生活は手厚く保障された。しかし1970年代の石油危機以降銅価格は下落の一途を辿りはじめた。アフリカ社会主義を国是とする政府は問題の所在を外資中心の産業構造にあるとみて梃子入れを図り、資源ナショナリズムによる鉱業部門の資本と労働者の「ザンビア化」政策を推進した。その結果として誕生したのが国営企業ZCCMと、N氏を含む大卒ザンビア人エリートだった。しかし、銅に依存した脆弱な経済構造は国有化後も残存し、むしろ強化された。国有化後も外国資本と外国人技術者を完全に排除することはできなかった。むしろそれらなしには操業すらままならなかったのだ。結局、社会主義一党体制の崩壊に遅れること10年、ZCCMは2000年に分割民営化され、各鉱山は再び外資の手に渡った。経営合理化のためにあらゆる福利厚生が削減されたのは言うまでもない。
夫妻の思い出話に耳を傾けながら街の遺構を巡った。ボーリング場、プール、映画館、クラブ、複合競技場。この国随一のエリートだった鉱山労働者たちを楽しませた数々の余暇施設は、荒れるにまかせて朽ち果てつつある。N氏が言った。「神はアフリカの地を豊かに造り給うた。だからアフリカ人はいつまでも怠け者で努力せず貧しいままなのだ」。刻苦勉励してザンビアの発展を支えてきた、古いエリートらしい見立てだった。彼の中には技術者としての自負と敬虔な信仰心が同居している。しかし、個人の努力だけでは限界があるのもまた事実だろう。N家の暮らし向きもまた次第に傾いてきている。今でも決して貧しくはないが、昨今の物価上昇をうけて夫の年金だけでは立ち行かない。小規模な養鶏の収入や家賃を家計の足しにしているが、資金繰りが追い付かないこともしばしばだ。ひとたび手にした豊かさを手放すのは苦しく、かつ難しい。ことアフリカにおいては、経済的成功者に周囲から多くの期待と責任が課せられるという事情もある。
「アフリカの貧困」と聞けば、おそらくほとんどの人が「未開」「遅れた」と形容されるような風景を思い浮かべるだろう。しかし、キトウェ市には一般的な印象とは異なる貧困の姿がある。かつてここには先進諸国に匹敵する豊かな暮らしが確かにあった(YouTubeで”Kitwe 1960s”などと検索されたい───欧州のどこかの街並みと見紛うだろう)。しかし、一次産品に依存したいびつな豊かさはZCCMとともに脆くも崩れ去った。没落貴族となった鉱山労働者とその家族たちは、寂れた街で過去に思いを馳せながら各々に生き抜いている。余暇施設の廃墟群は文字通りの砂上の楼閣として、栄華と没落の歴史を伝えている。
日陰を求めて廃墟のひとつに立ち寄った。N氏がかつて足繁く通った社交クラブだという。入口の階段に腰掛けて中を窺うと、色鮮やかなチテンゲ(ザンビアの女性が巻く腰布)が干してあるのが見えた。無人と見えた廃墟にも、黄金時代の遺産の上でしたたかに生きる人々がいるらしかった。
(上記記事に関する写真は次のFacebookページでご覧ください。)
https://www.facebook.com/asian.african.area.studies/posts/977414417515389?ref=embed_post
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■ メルマガ写真館 Photo Gallery
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「マンゴーの木かげの手仕事」
田中優花(アフリカ地域研究専攻)
未舗装のガタガタの道を揺られ、「あのマンゴーの木のところまで」とドライバーに伝えてモト(バイクタクシー)から降りると、顔なじみの男性2人が声をかけてくれます。彼らはガーナの手織り布「ケンテ」の織り手で、大きなマンゴーの木の下が彼らの仕事場です。
ケンテは17世紀ごろからガーナで生産され続けている、長い歴史を持つ高価で特別な布です。鮮やかな色糸がふんだんに使われ、熟練した職人の手仕事によって織られるケンテは、厚みがあってずっしりとしています。ケンテは、現在もガーナで大切な場面で晴れ着として着用されるほか、海外でもアフリカを代表する織物として広く知られ、親しまれています。
海が近く蒸し暑い調査地ですが、木かげにあるケンテの織り手たちの仕事場はいつでも涼しく、そよそよと心地よい風が通ります。
近所の女性が売り歩くハイビスカスのジュースやプランテン(調理用バナナ)チップスをおやつに買って、「ガーナ料理は美味いだろ、昨日の夕飯は何食べたんだ?」「昨日のサッカー見たか?」と他愛のないおしゃべりで私の相手をしてくれる2人の手元と足元は絶え間なく動き、少しずつケンテが織りあがっていきます。
風がそよぐマンゴーの木かげで、今日もガーナの手仕事は続きます。
(上記メルマガ写真館に関する写真は次のFacebookでご覧ください。)
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(過去のメルマガ写真館は、次のURLからご覧いただけます。)
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■ お知らせ Announce
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【研究会】
「東南アジアの都市居住」第9回・第10回定例研究会(ダイキンセミナー)
開催日時 2024年7月31日(水)10:00-12:00 (日本時間)
開催方法 オンライン
https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20240731/
開催日時 2024年8月2日(金)10:00-12:00(日本時間)
開催場所 京都大学稲盛財団記念館 2階 東南亭(201)
開催方法 対面のみ
https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20240802/
【展示】
エルメス財団主催のスキルアカデミー「土に学ぶ、五感で考える」
アフリカ専攻金子准教授が、資料提供・展示協力をしたエチオピアの土器を展示しています。
展示期間 2024年7月13日〜8月18日
会場 銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9階(中央区銀座5-4-1)
開館時間:11:00–19:00(入場は18:30まで)
主催 エルメス財団
https://www.africa.asafas.kyoto-u.ac.jp/news_kaneko_13072024/
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■ 最近の出来事 Recent Topics
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■ 編集子より From the Editor
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7月も後半に入り、先週は「いってきます」ゼミが終わりました。1回生にとっては、初めてのフィールド調査、どんなところなのか、想像したような研究対象に出会えるか…手探りも多く、どきどきの出発です。2回生以上の皆にとっては、既に知ったフィールドとの再会。出発前に憂鬱になる人も、嬉しくて飛行機に飛び乗る人も。いずれにしてもフィールドでは、思いもかけないこと、想定外のことがつきものです。私は、夏前にはしゃぎすぎて怪我をしたり無茶して体調を崩したりします…。気楽に、でも体調管理と安全には十分気を付けて、元気に調査にご出発ください!(K.A.)
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編集/発行:
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)広報委員会
ASAFAS キャリア・ディベロップメント室
ASAFAS 次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
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協力:
京都大学 アフリカ地域研究資料センター
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